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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)2733号 判決 1953年12月15日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人蓬田武の上告趣意(後記)について

所論第一点は、刑訴規則二一八条は、起訴状の記載を引用するに当り、その写を添附する等の方法によって判決自体にこれを明示することを要求しているものと解釈し、然らずとすれば同規則は無効であることを前提として憲法三一条違反を主張するのであるが、右規則の趣旨は、判決書作成の労力を省略することにより審理に重点を置かしめようとするものであるから、起訴状の写の添附の如きは当然必要としないとする趣旨の規定であって、所論記録保存上の難点は、別途に解決され得るものであるから、右規則を所論のように解する必要はないし、また同規則は判決書の記載方法に関するもので何ら法四四条、三三五条を改変しているものでないので、右規則の無効を前提とする違憲論も成り立たない。また法令の適用については、如何なる法令を適用して主文の判断をするに至ったかが判るならば、法条の羅列も違法でないと解すべきところ、第一審判決の敵条によって十分に第一審判決の法令上の根拠を知り得るのであるから、この点についての違憲論も亦前提を欠く(昭和二六年(あ)第四五六一号同二七年一〇月二日第一小法廷決定、判例集六巻九号一、一〇〇頁参照。)

所論第二点は、公判調書に裁判官、検察官とのみ記してその官名を明らかにしていないのは、憲法三七条に反するというのであるが当裁判所の判例によれば、裁判官というのは、官名であって必ずしも判事又は判示補と表示するの要はなく(昭和二三年(れ)一一八〇号同年一二月二四日第三小法廷判決、集二巻一四号一九〇八頁)、また検察官も官名である(昭和二六年(あ)八二五号同二七年六月五日第一小法廷決定)から、公判調書の記載は正当であるし、また公判調書のみによって立証を許されるのは、記載された訴訟手続の適否についてであるから、受訴裁判所の裁判官が判事であるか判事補であるかの如きは、他の方法で調査することを何ら妨げるものではない。またこのようなことは、証拠により認定すべき事実に属しないから、裁判所に顕著であるとして控訴趣意に対して判断をした原判決は正当であって、何ら非難すべきものではない。

違憲の主張は、その前提を欠くものである。

所論第三点は、公判調書に審判を公開した旨の記載がないから、憲法三七条、八二条に反するというのであるが、刑訴規則四四条を改正した昭和二六年最高裁判所規則第一五号は、通常当然行われる事項の公判調書への記載を省略することにより、事務の能率化、簡易化を図ったものであって、通常当然に行われることが行われていなかった場合には、当事者又は弁護人から異議を申し立てれば、これを公判調書に記載することにより、手続の正確化を図り得るし、また上級審において審査の対象ともすることができるのである。更に公判調書の記載については、その正確性についての異議申立の制度さえ存在するのであるから、刑訴規則四四条を無効とし、或は第一審の手続を憲法違反とする所論は、その実質において理由のない訴訟法規の非難にすぎないので採用できない。

所論第四点は、公判審理冒頭の諸手続が行われたことについて公判調書に記載がないから、憲法三八条、三七条に反するというのであるが、右第三点について述べたとおり、公判調書に記載がないからといって通常行われている手続が行われなかったということはできないから、違憲論は、その前提を欠き理由がない。

所論第五点は、量刑の非難であって、刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らない。なお、同四一一条を適用すべき事由も認められない。

以上何れも上告理由がないから刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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